遺言
遺言とは、人の生前における最終的な意思を尊重して、遺言者の死後にその意思を実現させるための制度です。
つまり、遺言によって死後の財産や権利について承継者を事由に決めることができるという法律行為です。
民法では、遺言に厳格な要件を定めているので、それによらない遺言は無効としています。

遺言書の必要性

被相続人が財産の分配について何も言わずに亡くなると、残された相続人が集まり話し合いによって分配方法を決めることになります。この話し合いで財産を巡っての争いやもめ事が起こるケースも少なくありません。
また、財産が不動産や株の場合い、誰がどれを相続するのかなど、上手くまとまらないことが多くあります。
しかし、遺言書があれば、相続人はそれに従うことになります。このように争いを未然に防ぐためにも、遺言書を作成しておく必要があります。

特に遺言が必要と思われる場合

■子供がなく、配偶者に全財産を相続させたい場合

■老後の面倒を見てくれた子供の配偶者にも財産の一部を渡したい場合
子供の配偶者には、相続権はありません。財産の一部を譲りたい場合には、その旨を記した遺言書が必要になります。

■相続人が全くいない場合
相続人がいない場合には、特別な事由が無ければ遺産は国庫に帰属してしまいます。それを望まない場合には、財産を譲る相手を決め、遺言書を作成しておく必要があります。

■相続人の中に素行の悪いものがいる場合
相続人の中に素行が悪く、ほとんど疎遠な状態が続いていて、相続分を少なくしたい相続人がいる場合、その旨を記した遺言書が必要になります。

■未認知の子供がいる場合
遺言によって認知することも可能です。

■孫にも財産を譲りたい場合
孫には相続権がありませんので、財産を譲るためには、遺言書に記する必要があります。

遺言事項

遺言事項とは、法律上遺言としの効力が認められている事項のことです。遺言事項は大きく分けて「身分上の事項」「相続に関する事項」「遺産処分に関する事項」「遺言執行に関する事項」「その他」の五つに分けられます。これら以外のことを遺言しても法律上の効力はありません。この場合、遺言全体が無効になるわけではなく、その部分のみが無効となります。

1.身分上の事項
 ・子の認知
 ・未成年者の後見人の指定
 ・後見監督人の指定 

2.相続に関する事項
 ・相続人の廃除、排除の取消
 ・相続分の指定、及び指定の委託
 ・特別受益の持ち戻しの免除
 ・遺産分割の方法の指定、及び指定の委託
 ・遺産分割の禁止
 ・遺産分割された財産について相続人同士で担保責任を負わせること
 ・遺贈の減殺の順序、及び割合の指定

3.遺産処分に関する事項
 ・遺贈
 ・財団法人設立のための寄付行為
 ・信託の指定

4.遺言執行に関する事項
 ・遺言執行者の指定、及び指定の委託
 ・遺言執行者の職務内容の指定

5.その他
 ・祭祀承継者の指定
 ・生命保険金受取人の指定、及び変更
 ・遺言の取消

遺言執行者

遺言執行者は、遺言書に書かれている内容を実現するために、相続財産の管理や遺言書の内容通りに遺産を分割します。

・遺言執行者の資格要件
 未成年者と破産者を除いて、誰でも遺言執行者になれます。

・遺言執行者の選任
 遺言により遺言執行者を指定するか、第三者にその指定を委託できます。

・遺言執行者が必ず必要な場合
相続人の廃除及び排除の取消
子の認知

・遺言執行者に対する報酬
遺言執行者への費用は、相続財産から控除されます。

事業承継

事業承継の問題

1.経営権の引き継ぎ→人の問題
2.株式の引き継ぎ→財産権の問題
 の両面から対策を行っていく必要があります。

事業承継の選択肢

事業承継の方法には、大別して、1.親族内承継、2.従業員等への承継、3.M&A等があります。

1.親族内承継
親族内承継は、子供などの親族が後継者となる場合ですが、 取引先等から心情的に受け入れられやすく、早期の後継者教育、自社株等の事業用資産の集中(贈与・相続など)の面からも有利となります。
反面、その後継者が経営者としての資質をもっているか問題となり、検討する必要があります。

2.従業員等への承継
親族内に後継者としての適任者がいない場合に、役員・従業員・取引先関係者など事業に深く携わってきた信頼できる身近な人を後継者候補として検討することになります。
会社の役職員等が株式を買い取って独立するMBOをすることになりますが、その資金を調達できるかが問題になります。
※MBO→経営陣が自ら調達した資金で事業部門や会社を買収し、株主から経営権を取得すること

3.M&A等
M&Aとは、一言でいうと会社を売り買いすることです。親族内や従業員等に後継者がいない場合には、事業売却も有力な選択肢となります。
従業員の雇用継続、会社ノウハウの継承の面から利点がありますが、当然のこととして売却先企業がみつかるかの問題があります。会社に技術・営業上の強みがあり、一定の利益・資産が確保されている必要があります。

事業承継のための具体的対策

一、株式の生前贈与
株式の生前贈与をする場合、次の事項を検討する必要があります。
  1. 受贈者を誰にするか
  2. 贈与税
  3. 株式の評価額(贈与のタイミング)
  4. 贈与契約書、株式譲渡承認申請書、譲渡承認をした株主総会議事録などの手続面

二、株式の遺言による遺贈と相続
株式を遺言により遺贈または相続により承継をする場合、次の事項を検討する必要があります。
  1. 受贈者を誰にするか
  2. 相続税
  3. 遺留分
  4. 定款の定めに基づく相続人に対する株式売渡請求、自己株式の取得など

三、親子間での自社株式の売買  
生前贈与ではなく、親から子へ自社株を売買する場合、譲渡所得税、贈与税の関係から、株式の売却価格などを中心に検討する必要があります。

四、種類株式の活用  
株式会社(含む有限会社)では、株式一株あたりの権利(配当・議決権など)は平等で、株主は持株数に応じてその権利を行使できるのが原則です。
ただし、定款に定めれば、配当や議決権等について、他の株式と異なる株式を発行することが認められており、この株式を種類株式といいます。

事業承継対策に有効な種類株式としては、
  1. 無議決権株式
    経営に関与しない相続人に取得させる株式で、後継者に会社の支配権を集中させることができます。
  2. 拒否権付株式(黄金株)
    普通株式を後継者に譲渡してしまっても、元の経営者(親など)が一定の重大事項について拒否できる拒否権付株式を持ち続けることで、後継者が一人前に育つまでは後継者が暴走しないように監督することができます。
  3. VIP株
    後継者(社長)の議決権を激増させ、後継者に会社の支配権を集中させることができます。
  4. 剰余金配当優先株式
    相続人間の公平を確保するため、経営に関与しない相続人に、議決権を制限する代わりに利益配当面で優遇させることができます。

五、貸付金の資本金への振替  
自分が経営する会社に、資金繰りのため個人的資金を貸し付けていて返済予定がない場合、資本金の増資に充当(債権の現物出資)した方が有利な場合があります。
相続税の計算において、株式の方が貸付金よりも評価減の効果を受けやすくなったり、 また、貸付金はその名のとおり、会社にとっていつかは返す義務のある債務ですので、会社経営に関与しない相続人が返せと要求すれば、会社は返さなければならなくなります。
資本金への振替えは、自己資本の充実の観点からも検討すべきでしょう。

六、機関設計など会社の体制  
後継者のイエスマンだけの取締役・株主だけが、会社にとってよいこととは限りませんが、やはり、会社の機関設計・株主総会の決議要件・役員の任期・役員の人選などは、後継者にとってベストの体制を考えるべきでしょう。
実際に変更する場合、会社の機関、役員の任期などは、会社法に規定されており、また、定款記載・登記事項ですので、会社法・登記などの手続面をしっかり対応しておく必要があります。

種類株式

会社法では異なる権利を付与した複数の種類の株式を発行できます。

一 種類株式には九つの事項があります。
会社法が内容の異なる「種類株式」として、非公開の中小企業に認めているのは、次の9つの事項に限定されています。

  1. 剰余金の配当
  2. 残余財産の分配
  3. 株主総会において議決権を行使できる事項(議決権制限種類株式)
  4. 譲渡制限(譲渡制限種類株式)
  5. 株主から会社への取得請求権(取得請求権付種類株式)
  6. 会社による強制取得(取得条項付種類株式)
  7. 総会決議に基づく全部強制取得(全部取得条項付種類株式)
  8. 定款に基づく種類株主総会の承認(拒否権付種類株式)
  9. 種類株主総会での取締役・監査役の選任(選解任種類株式)

「種類株式」とは、このようにさまざまな条件について普通株式とは異なる権利、内容を持つ株式のことです。


二 議決権が制限されている種類株式(議決権制限種類株式)
株主総会の全部または一部の事項について、議決権 を行使できない株式をいいます。特に総会のすべての事項について議決権を有しない株式を「完全無議決権株式」といいます。
議決権の制限に関しては、例えば次のような種類のさまざまな要素が混合された株式が考えられます。

  1. 配当優先無議決権株式(無配当の場合に議決権を復活させるもの、無配当の場合でも議決権が復活しないもの、どちらもOKです)
  2. 配当優先のない無議決権株式
  3. 利益処分案など、一部の議案についてのみ議決権を有する株式
  4. 残余財産の分配について、優先権のある無議決権株式
発行済株式総数の二分の一までという制限もなくなり、無制限に議決権制限株式を発行できるようになりました。
例えば議決権制限株式を発行している場合、株主総会で完全に安定議決権を確保しようとすると、九九%が完全無議決権株式であったとすると、一%の普通株を所有していればよいことになります。 従来に比べると、より少ない自社株のみで安定議決権を確保することができます。
この議決権制限株式を発行するには、発行可能総数と議決権行使事項・条件等を定款で定めなければなりません。
これから会社を設立する場合には、これらの発行手続きを採れば問題ありません。しかし、すでに普通株式を発行している場合に、一部の株式を配当優先し議決権を制限することは、一部の株主についてのみ有利な株式への変更をすることになります。
よって、株主総会の特別決議によって定款に優先株式の内容について定めるなど、非常に厳格な手続きが必要です。

手続内容

取締役会
臨時株主総会の招集決議(優先株式の内容の決定を含む)

臨時株主総会の開催
定款変更決議→特別決議

1.配当優先種類株式授権枠の決定

2.普通株式の内容変更→配当優先株式を引換えとする
取得条項付株式(当該株主の了解が必要)
株式の変更 取得条項付株式の一部を取得→配当優先株式の交付

3.剰余金の配当についての種類株式
定款で剰余金配当の算定基準について決めておけば、優先配当額の上限を定款に記載する必要はないので、トラッキングストックのように子会社や一定事業部門の収益に連動する種類株式の発行も可能になっています。
また、配当優先株式は議決権と連動させる必要がなくなりましたので、自由にいろいろな株式が発行できます。

4.拒否権付種類株式
株主総会または取締役会で決議しなければならない事項について、定款でその株主総会または取締役会の決議の他に、種類株主総会の決議を必要とする旨を定めることができます。これにより、ある種類株主に特定の事項について“拒否権”を与えることができます。
例えば合併や代表取締役の選任を拒否するといったことです。「黄金株」ともいわれ、一株で会社を防衛することのできる切札といわれています。

5.属人的種類株式
これまで株式会社では、原則として出資額に応じて議決権・配当を行うことになっていました。一方、有限会社では、定款に定めを置けば、議決権の行使や配当について社員ごとに異なる取扱いができることになっていました。
会社法では株式譲渡制限会社においては、これまでの有限会社と同様に、剰余金の配当・残余財産分配権・ 議決権について株主ごとに異なる取扱いをすることを定款に定めることができるようになりました。
この株式も内容の異なる種類株式となり、属人的種類株式といわれます。

 

株主の異なるごとの取扱いには、例えば次のようなものがあります。
(一) 剰余金の分配:所有株式数によらず「頭割り」で分配する。
(二) 残余財産の分配:所有株式数によらず「頭割り」で分配する。
(三) 議決権:一株に総議決件数の過半数の議決権を与える。
   一定数以上の株式を有する株主については、議決権を制限する。

 

例えば、後継者に「一株に総議決権の過半数の議決権を与える」内容の株式を取得する権利(ストックオプション)を与えたとしますと、後継者へ議決権を集中させることができ、事業承継対策に大きな効果があります。
ただし、定款でこのような異なる取扱いを新設したり変更したりすることは、株主の権利に大きな影響を与えますので、通常の場合の株主総会の特別決議(議決 権の過半数の出席かつ、出席株主の三分の二以上の賛成)ではなく、より厳しい決議(総株主の過半数、か つ総株主の議決権の四分の三以上の賛成)が必要となります。

6.種類株式の発行手続き
種類株式を発行するには、各種類株式の発行可能総数と内容について定款に定めなければなりません。
ただし、剰余金の配当については内容の要綱だけ決めておけば、実際の発行時に、具体的な金額について取締役会で定めることができます。
なお、会社が種類株式を発行するとき、一定の事項を株主名簿・株券などに記載し、かつ登記しなければなりません。

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律

「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が平成20年5月9日に国会で成立しました。この法律の主な内容は次の3つです。

  • 相続税法の特例(多額な相続税対策)
  • 金融支援(多額の資金需要の発生に対する対策)
  • 民法の特例(遺産分割による株式の分散対策)

施行前の遺留分による事業承継問題

相続があり、遺言があったとしても又は生前に財産を贈与していても、遺産分割でもめることがあります。
具体的には、次のような問題点があります。

  • 民法では兄弟姉妹以外の相続人には遺留分(配偶者や子供に保障された最低限の資産を承継する権利)が保障されているため、相続争いなどにより事業承継人が必要な資産を承継できなくなってしまう恐れがあります。

  • また、生前贈与された財産がある場合には、民法上、遺留分の計算については相続開始時点の評価で計算されることとなるため、後継者が贈与により取得した株式の価値を自らの貢献により増大させた場合には、遺留分が上昇してしまいます。

そこで、民法の特例を規定しました。

民法の特例

この民法の特例は2つです。

  1. 贈与株式を遺留分の対象から除外
    贈与株式等を遺留分の対象から除外できる制度です。
    先代経営者が生きているうちに、後継者に株式等を贈与した場合に、贈与株式等を遺留分の対象から除外することで、相続に伴う株式の分散を防止できるというものです。

  2. 贈与株式等の評価額を予め固定
    贈与株式等の評価額を予め固定できる制度です。
    先代経営者が生きているうちに、後継者に株式等を贈与した場合に、遺留分算定の財産に加算される贈与株式等の評価額を予め固定することで、贈与後の株式価値の増大による遺留分の上昇を防ぐことができます。

適用要件

一、先代経営者の要件

  • 特例中小企業者(中小企業者のうち、一定期間以上継続して事業を行っているものとして経済産業省令で定める要件に該当する会社)の元代表者又は現在の代表者であること

  • 推定相続人(相続を開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外のものに限る)に株式等を贈与したこと

二、後継者の要件

  • 先代経営者の生前に、経済産業大臣から確認を受けた「後継者」が遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けること

  • 先代経営者の推定相続人であること

  • 株式等を先代経営者から贈与により取得したこと

  • 議決権の過半数を保有していること

  • 特例中小企業者の代表者であること
なお、手続きについては後継者が単独で行うこととなるため、当事者全員が個別に申立てを行うことが必要である従来の遺留分放棄に比べ、非後継者の手続きは簡素化されることになります。

円滑化法に基づく合意の効力の消滅事由

  1. 経済産業大臣の確認が取り消されたこと

  2. 旧代表者の生存中に後継者が死亡し、または後見開始もしくは保佐開始の審判を受けたこと

  3. 合意の当事者以外の者が新たに旧代表者の推定相続人となったこと

  4. 合意の当事者の代襲者が旧代表者の養子となったこと